高校時代へタイムスリップ

天球儀文庫 (河出文庫)


自由が丘の本屋さんで、懐かしいものをみつけた。
長野まゆみさんの『天球儀文庫』だ。


この作品との最初の出会いは、高校時代。
当時すごく尊敬している女友達から紹介されて読んだのがきっかけだった。


その頃はまだ文庫になってなかった。心惹かれる綺麗なイラストと柔らかな素材を使った装丁で、
確か、A5サイズくらいだったかな。
持っているだけで贅沢な気持ちになれる本だった。
もちろん素敵なのは外見だけに留まらない。
本を開くと、そこに描かれる世界も、独特なルビを使った表現も美しかった。


すっかり記憶が薄らいでしまっているのだけれど、
彼女の作品の中には、少年が二人現れる。それも美少年。
彼らからかもし出される雰囲気は
宮沢賢治のジョパンニとカムパネルラからのそれとどことなく重なる。
現実の世界をあまり楽しんでいないジョパンニが、
少し大人びたカムパネルラが持つ独特の世界に
引き込まれていくようなところとか、かな....。


本の目次に目をやる。


・月の輪船
・夜のプロキオン
・銀星ロケット
・ドロップ水塔

昔はシリーズで分冊になっていたけれど、4作品まとめて文庫になっていた。



読んですぐ、私も長野さんのファンになったんだよね。
紹介してくれた彼女、どうしてるかな。


久しく会っていないけれど、彼女への尊敬の念は今でもずっと変わらない。
字がきれいで、感受性が豊かで、知性に溢れていて。
サティを教えてくれたのも彼女だったし、
放課後の夕焼けの美しさを分かち合ったのも彼女とだった。


国語の授業で手紙や案内状を書く自由課題で、
ほかのみんなが「保護者会のお知らせ」や「文化祭の案内」など
一般的なタイトルで書いている中、
彼女の「鉱石交換会のお知らせ」は相当なインパクトだった。
宮沢賢治と、宮沢賢治に影響を受けている長野さんの本を
たくさん読んでいる彼女にとっては、ごく自然な発想だったのだろうけれど。


ある日長野さんのサイン会があるというので、誘ってくれたものの
部活の試合かなにかで行けなかった私は、彼女にファンレターを託した。


驚いたことに、後日長野さんご本人から返信の封書が届いた。
トレーシングペーパーのように透ける便箋と封筒。
本の世界からそのまま届いたようなメッセージで思わず感激のため息が出た。


同時代に生きている作家の方とコンタクトをとったのも、
また返信してもらったのも、この時が初めてだったし、
その後紆余曲折を経て作家をめざしたりしているだから、
彼女にはこのとき本当に貴重な経験をさせてもらったことになる。


久しぶりに高校時代に戻って、
彼女のことを思い出しながら、読んでみよう。


週末の楽しみをお持ち帰りすることにした。