クリスマスを買いに(1)

クリスマスシーズンなので、クリスマスのお話を書いてみようと思います。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ルルはクリスマスを知らない。
12月になって。5歳のルルは
保育園で仲良しの双子の姉妹ミクとクミからクリスマスの話を初めて聞いた。


「クリスマスにはチキンを食べるのよ」
「ケーキも食べるわ」
「ツリーを見ながらお歌を歌うときもあるの」


いろいろ教えてもらったけど、ルルが一番胸躍ったのは
「赤い靴下をベットのそばにかけておくとサンタさんが眠っているときにプレゼントをくれる」という話。


「去年はお姫様のペンダントをもらったのよ」とミク
「ミクはお星様でクミはハートの形だったの」とクミ
へえとルルはまんまるの目をさらに大きくして聞いていた。


夕方ママがお迎えに来ておうちまでの帰り道....
ひんやりと冷たくなる指先に、ハアって息をふきかけながら、
ルルはママに聞いた。
「ママ、クリスマスって知っている?」
ママはルルの手をきゅっと握って前を向いたまま
「何かしら。知らないわ。」
と、言った。
「チキンと、ケーキと、ツリーなのよ」
重ねてルルは言ってみたが、ママは
「ルル、残念だけどうちにはクリスマスないのよ」
と答え、それっきりになった。


サンタさんの話を一番したかったけど、ルルはごくっとお話を飲み込んだ。
早足のママに遅れないよう歩くのをがんばりながら
「ルルもクリスマスしたいな」と思った。


アパートに帰り、ママがお夕飯の準備をしている間、
ルルは赤い靴下を探した。でも、ルルのママは、どんな洋服にも合わせやすいようにと白と紺と黒の靴下しか買わなかったから、見つかるはずはなかった。


そのうちいいにおいがしてきて
「ルル、お夕飯の支度手伝って」とママに呼ばれたので、
ルルはお箸を並べるのを手伝った。
白いご飯と、きゅうりのお漬物と、わかめのお味噌汁に、今日はなすのしょうが焼きだった。食事中おしゃべりするのをママはいやがったけど、「おいしいね」と言うと
「ありがと」とにっこりしてくれることもある。
だからルルは食べる前と、食べているとき、食べたあとに「おいしそうだね」「おいしいね」「おいしかったね」と言ってみて、3回のうち1回でも「ありがと」って言ってもらえると(成功!)と思っていた。


ママは時計をちらっと見て、お箸を机に置くと、
「お片づけお願いね」と言って、ルルにお片づけを任せて、自分はお風呂とお布団の準備を始めた。今日は「ありがと」を言ってもらえなかった。(失敗だったみたい)ルルは少しだけがっかりした。


それからルルは、ママに、お風呂の椅子をパスしてもらって、流しの前にそれを持ってきた。踏み台にするとお皿を洗うルルの背丈にちょうどよいのだった。


お皿を洗うと、お風呂だった。ママと二人で湯船につかりながら、100まで数を数えた。
お風呂からあがり、ルルにパジャマを着せ、お布団をかけると、ママは、「いい子にしていてね」と言い、優しい音楽をタイマーつきでかけて慌しくアパートを出て行った。


ルルはお皿を洗っている時も、お風呂に入っている時も、お布団に入る時も
「ルルもクリスマスしたいな」とずっと思っていた。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


クリスマスイヴの日。ミクとクミは、1日中そわそわして嬉しそうだった。今日おうちに帰ると、おいしくて素敵なパーティーなんだと言う。ルルもそわそわしてるけど、なんだか憂鬱だった。


夕方ママがお迎えに来た。ルルはなんとなくさみしくてブーツのつま先を見ながら歩いていた。


「ルル、これからお買い物しにいこっか?」保育園からしばらく歩いて、大きな通りの信号待ちでママがふいに話しかけてきた。
「何を買うの?」ルルは聞いた。
「クリスマス」



クリスマス



ママは確かにそう言った。

ルルの顔に笑みが広がって、ルルはママがつないでくれていた手をぎゅっとにぎりかえしてうなづいた。


最初にルルとママはお花屋さんに行った。緑色のツリーが鉢に入っていて、特売で300円だった。
「リボンを長めにください。できればくずかごの中のあまりのリボンもください」とママは頼んで、鉢をいれるビニールに入れてもらった。


それからケーキ屋さんに行き、大きなシュークリームを1つ、エクレアを1つ買った。
「家に帰るまでは遠いので1時間分の保冷剤を。80になる祖母の誕生日も兼ねているんです。ろうそくも80本ばかり入れてください」とママは頼んで、エクレアと、シュークリームの箱にぎゅうぎゅうに保冷剤をつめてもらい、カラフルな80本の楊枝サイズのろうそくを入れてもらった。


それからお菓子屋さんに行き、キャンディーとチョコレートと、ビスケットを買った。
ラッピングの綺麗なお店で、クリスマスシーズンには袋にヒイラギの飾りを金銀のシールでとめてくれるサービスがついていた。キャンディーはキラキラとした小瓶に。チョコレートとビスケットは宝石箱のような丸い箱にそれぞれ詰めてくれた。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★





今日はココまで。これから、ママとルルのクリスマスパーティーが始まります。