向田邦子さんについて

はな

向田邦子さんが好き。
おんなじ匂いを感じる。

向田さんは、幼い頃の出来事を、味覚やそばにいた人の温もり、色、風景で記憶している。
たとえば、お祖母さんに手を引かれて松茸を買いに行った夜道、ラジオの歌を聞いたという思い出話。彼女の記憶の手繰り寄せ方はこんな感じ。まず彼女は、ラジオの音を思い出す。その音を反芻していると、住宅街の家々の黄色っぽい電気の光が浮かんでくる。お祖母さんのカサカサした掌の感触を思い出す。あれは確か松茸を買いに行ったのだ。なぜそんな夜遅くに?そうだ、お父さんの大切なお客さんが突然見えたのだ....といった感じ。


私も同じ感じ。小学3年生くらいの頃のある時期、友人と日が暮れるまで(暮れてしまった後も)、毎日毎日夢中になって一輪車に乗る練習を良くしていた。思い出すのは黒くてサドルの部分が少しはげていてスポンジが見えているような一輪車。ブロック塀を少しずつつたいながらこいでいくときのひんやりとした感触。平らだと思っていたアスファルトに小さな石ころがあって、下手なうちはそんなちいさな石ころたちに邪魔されてすぐにつまづいてしまったこと。日が暮れて、友人と互いに顔が見えなくなってしまってもずっと練習し続けていたことなどだ。



向田さんはまた、図書館のようにたくさんの本を持っていて、人から電話で何か聞かれると、「5分したらかけなおしてね」といって電話を切る。その後、自分の書棚の本から答えを探し、教えてあげる。意味だけでなく、ちょっとした付録をつけて。たとえば「左義長(さぎちょう)」という言葉について訊かれるとする。すると一月十五日、日本の古くからの習慣で、正月に飾った門松やお飾りなどを自社の境内に持ち寄って焼く。これが<左義長>で、地方によっては<どんど焼き>とも言う。そんな辞書的な答えだけでなく、彼女は続けてこんなことを加えてくれるのだ。
「別に関係ないけど、この日は<女正月>とも言うのよ。お正月の間台所で忙しかった女たちが、ようやくほっとして女だけでご馳走を食べてこっそり新しい年を祝うの。知らなかったでしょ」これが彼女の付録。


私の場合、図書館とまでいかないけれど、やっぱり何かつくろう、レポートを書かなきゃ、調べ物をしなきゃ、というときには、たいてい手がかりとなる本があってなんとか事足りる。
仕事場で、こんな資料ない?と聞かれたときも、たいていPCを漁れば自分の作ったエクセルやパワーポイントなどからだいたい期待にお答えできるようなデータはある。



彼女がフリーライターとして活躍しだすのが30歳前後から。29歳くらいでテレビの放送作家としてのデビュー。エッセイは40歳後半になってから書き始めたらしい。私が生まれて程なくして飛行機事故で亡くなっている。

会ってお話したかったな。
近い将来、私も彼女のように日常を丁寧に書けるような作家になれたらいいなと思う。



▼雑誌を見てたら発見▼ GW中に行ってみようと思います♪
向田邦子展◆  http://www.nhk-sc.or.jp/event/contents/mukouda.html