ホチキス 第一話

wanwan


☆昔書いた童話を紹介します☆


月曜日の朝、学校へ急ぐ通学途中でのことです。
「あ、どうしよう」りりぃはあともう少しで学校、という道の曲がり角でふと立ち止まりました。
1時間目の図工の授業で使うホチキスを家に忘れてきてしまったのです。


(どうしよう、こまったなぁ)りりぃは自分が来た道を振り返りました。
りりぃの住む町は都心から少し離れた郊外にあります。
山を切り崩して建てた家が多く、学校までの道のりも長い長い坂道が迷路のように入り組んで続いています。
(今からおうちに引き返したら、絶対遅刻しちゃうしなぁ)時計の針がさしているのは8時15分。授業の始まりまで、あと10分です。


(ゆみこ先生、遅刻にはうるさいのよねぇ)上ったり下ったり坂道ばかりが続くりりぃの家まで今から取りに戻るというのは、かなり大変そうです。学校についてから仲良しのケイコに借りようかしら、とも思いましたが
「ホチキスは一人必ずひとつずつ。友達の作業を邪魔しないように、絶対忘れ物には気をつけましょう」と昨日何度も念を押していたゆみこ先生の言葉を思い出すと、やっぱりそれはできません。


(お母さんに電話して、持ってきてもらおうかしら?)足取りは重たいまま、ゆっくりと歩き出しながらりりぃは考えます。
(でもお母さん、この前もPTAの懇親会の申込書を届けてもらおうとしたとき、結局私の机の上から探し出せなかったのよねぇ)自分の忘れ物を棚に上げて、りりぃはお母さんのおっちょこちょいが心配で、どうも頼む気になれません。


イライラとドキドキした気持ちが混ざり合って、りりぃの手には汗がにじんできます。
時計は8時20分。もう完全に家には戻れません。いつもは歩くのが楽しみなのどかな町並みが、今日はなんだか恨めしくさえ思えてきます。


(もうどうにでもなれ、だわ!)とうとうりりぃはホチキスのことはあきらめて、ひとまず学校へと勢いよく足を踏み出しました。


すると、ちょうどそのとき、



第二話へつづく